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最高裁判所第三小法廷 平成3年(オ)20号 判決

東京都中央区銀座二丁目六番五号

藤屋ビル三階

上告人

近藤德三

右訴訟代理人弁護士

佐藤和夫

佐久間哲雄

東京都中央区日本橋三丁目六番二号

被上告人

株式会社 小林コーセー

右代表者代表取締役

小林禮次郎

右当事者間の東京高等裁判所平成元年(ネ)第三六七一号不正競争行為差止請求事件について、同裁判所が平成二年九月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐藤和夫、同佐久間哲雄の上告理由及び上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。また、記録にあらわれた訴訟の経過に照らせば、原審が所論の証拠調べをしなかったことにも所論の違法があるということはできない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄)

(平成三年(オ)第二〇号 上告人 近藤德三)

上告人の上告理由

平成二年一二月四日付上申書記載の上告理由

私は厚生省告示第二八〇号基準適合パーマ液の毛髪塗布時の廃液から容易にシアンが鑑定できる理化学的実験法を公開した甲第三九号証と無シアンパーマ液の国際特許公報の権利者であります。

凡そパーマネントウエーブ液(以後パーマ液と称す)には二種類ある。

即ち今から三五年前からパーマ液第一剤に無毒品と毒物品があることは知られていた。多くの化学者が無毒品の発見に努力したのである。

パーマ液薬害事故は同第一剤塗布時に全て発生又は起因しているのである。私は、無シアン(無青酸)パーマ液と云う絶対安全パーマ液の国際特許権者である。私は従来の厚生省告示第二八〇号基準適合第一剤即ち被上告人のシアン化物(青酸ガスは化学兵器となる)を発生することによって毛髪を軟化し、曲毛化せしめるパーマネントウエーブ法が青酸ガス公害になる事を発見した。よってシアン化物を発生しない一液式の完全に安全な新規パーマ法を発明して、被上告人の技術導入先のロレアル社の本国であるフランス国を始めアメリカ、イギリス、オーストラリア、イタリア、カナダ他世界(約二〇億人)で革新的発明と公示され認められた無シアン製品の国際特許権を得たものである。勿論上記特許公報のオリジナルは1987年3月14日昭和62・59205号で公開特許公報により四年近く前に公示され、全国民が厚生省告示基準適合品は全てシアン化物発生品であることが知らされているのである。

上告人が提出した甲第三九号証により何人も直ちにシアンを容易に再確認ができるのである。即ち厚生省告示基準適合第一剤が主成分チオグリコール酸とアルカリ度の上限が公示されているので、誰でも容易に上限に近いアンモニア水と少量のアルカリを配合することにより、市販品に一致する第一剤ができるのである。これを毛髪に塗布して得た廃液には、シリコンオイルも炭酸アルカリも乳化、浸透、起泡剤も無く、酸化剤も無いので疑似呈色物質の生成がなく直ちに同廃液からシアン検出が簡単に正確に敏速にできるのである。疑似呈色物質があると云うなら植松鑑定人は、化学的基礎となる甲第三九号証の実験法に述べられている第一剤塗布時の廃液について予備実験をすれば良い。

しかるに植松鑑定人は予備実験をしたと云うが、上記の基礎的な甲第三九号証の実験を、全くしていない植松鑑定人が、上記の通り容易にできた筈の厚生省告示同基準第一剤適合品塗布時の廃液からシアン化物(通気法)及び全シアン(シアン化合物)の検出及び確認をせずに、空論を以て「検出された全シアンはシアンではない」と公言し鑑定書を作ったことは化学者として絶対に許せない不正であり違反である。期くの如く不正、違反を犯した植松鑑定書が、再三再四の誤認定及び誤判決を惹起したものである。即ち原判決は正に理由なき衆知の経験則違背である。

ところが再鑑定も尋問も質疑応答も全くさせないことを裁判長が法廷で平成2年7月12日明確に宣言したことは絶対に許せない。

このような理由不備実験をした植松鑑定に依拠し、化学的の基礎となる甲第三九号証証拠をも退けた本件高裁の原判決は当然誤りで、世界二十億国民に対するシアン化物の青酸ガス拡散を招くのである。基礎実験を欠き「全シアンをシアンでない」とした不法な無数の経験則違背の原判決について原告代理人弁護士を通じて堂々と、別途上告理由書を提出する。

原判決がJIS規格全シアン法のシアンを認めないことは全国民にとって重大な事態になる。

直ちに本件高裁の経験則違背の原判決は破棄されなければならないことである。よって国際特許権者として上告人は次の通り緊急要望事項を提示する。人権差別事件につき敬称を略す。

緊急要望事項

一 本件パーマ液のシアン検出実験法は日本国裁判所が採用した方法であり毛髪とパーマ液第一剤による自然の化学変化を作り出すものである。このJIS規格を順守したシアン検出実験法は、毛髪を四〇度℃六〇分間浸漬するシアン実験方法で上告人が世界で始めて昭和四九年に考案したシアン化物検出実験法である。

この同じ実験法で、国家公務員が実験したものは認め、公認の環境計量士が実験したものは、一切認めないと云う差別をした認定は許せない。

二 原判決は本件日本国厚生省告示第二八〇号二浴式パーマ液基準適合の第一剤を毛髪に塗布した過程において発生したシアン特異の悪臭あるパーマ廃液について、当然判った筈の化学者植松鑑定人が前記シアン検出確認の予備実験をしなかった不正及びJIS規格全シアンをシアンでないとした重大な違反により作られたものである。よって原判決は学問無視の誤認定がある。重大な誤審である。

三 日本国裁判所は厚生省告示第二八〇号基準適合の二浴式パーマ液第一剤塗布時の過程においてシアンがでないと認定をしたが、これは経験則に違背した事実誤認である。

更に上告人が発明した無臭で無シアン品の国際特許権国である主要国、即ち人権を守る米、英、佛、伊、豪、カナダ、シンガポール、ホンコンその他を含む世界二十億と云う膨大な全国民に対し、上告人の国際特許公報に明白に記載されている事項を否定したことになる。

これは大変な事である。緊急に全世界に左記イ、ロ、およびハ項について即時撤収撤回されたい。

イ 全世界で共通かつ公認されているJIS規格で検出された全シアンはシアンであることを絶対に認めない行為及び甲第三九号証を退けた認定

ロ 被上告人の製造に係るパーマ液製品全部の販売行為を許す判決

ハ 疑似呈色物質を明記し確定されないでJIS規格で検出された全シアンをシアンでないと云う学問無視の認定及び原判決

以上

(平成三年(オ)第二〇号 上告人 近藤德三)

上告代理人佐藤和夫、同佐久間哲雄の上告理由

第一点

原判決には、理由不備ないし理由齟齬があり、破棄されるべきである(民事訴訟法三九五条一項六号に該当)。

一 1 凡そ世に使用されているパーマ液には有毒なものと無毒なものとの二種があり、本件係争の主要な争点は、本件パーマ液の第一剤および第二剤を使用する施術過程においてシアンが発生するか否かである。

ここに「本件パーマ液」というのは、ボルテイスNO2、ミニバーグドウサー、ボルテイスサーンスNO2、ポリュフォームNO2等のことである(第一審判決三五丁裏)。

2 原判決は、シアンが発生する旨の上告人の主張を排斥し、次のとおり説示している。

「本件パーマ液のうちボルテイスNO2については、植松鑑定により、その使用によってシアンは発生しないものと認められ、また、本件パーマ液のうちのその他の製品についても、その使用によりシアンが発生すると認めるに足りる証拠は存在せず、かえって、前掲乙第四四号証、第四八号証を総合すれば、これらについてもシアンの発生する可能性はないものと認められる。・・・・・」(第一審判決一九丁表)。

3 然しながら、乙第四八号証は、ボルテイスNO2、および訴外株式会社アリミノ、同株式会社セイフテイのパーマ液に関する第二剤を併用した場合の鑑定書であって、ボルテイスNO2を除く本件パーマ液ミニバーグドウサー、ボルテイスサーンスNO2、ポリュフォームNO2等についての記述は存在しない。

また、乙第四四号証にあってもボルテイスNO2以外の本件パーマ液に関する記載はない。

然して「乙第四四号証、第四八号証を総合すれば、これら(上告人注・ボルティスNO2以外の本件パーマ液)についてもシアンの発生する可能性はないものと認められる」とし(第一審判決一九丁表)、「本件パーマ液の使用によりシアンが発生するとの原告の主張は採用することができないものというべきである」とする(同丁表)原判決は、判断過程が不明瞭というほかなく、理由不備に該当すると判断する。

二 1 原判決は、厚生省薬務局長から各都道府県知事宛昭和四一年一〇月五日薬発第七二七号「コールドパーマネントウエーブ用剤の使用上の注意について」(以下「使用上の注意」という。)の中に「頭皮・顔面・首筋等に薬液が付着しないよう留意すること。」と定めている趣旨につき、「コールドパーマネントウエーブ用剤による皮膚障害を極力防止するため、使用時に頭皮等に薬液ができる限り付着しないよう使用すべきことを使用者に注意喚起する趣旨のもと解すべきであって・・・」と認定した(第一審判決二二丁表)。

2 他方上告人において、第一審判決別紙第一目録記載の表示は週刊誌に繰り返し広告されたもので、図に付された説明文は、ステップ2「・・・スポンジできめ細かな泡・・・」、ステップ4「・・・マッサージ。二液がふわっと泡立ち、・・・」と記載され、ステップ4の図板は頭部全体が泡で覆われ顔面にまで泡が飛び散っているものであること等を指摘し、第一目録記載の一連の表示は本件パーマ液が「使用上の注意」の遵守義務を免れた無害の品質のものである旨の品質誤認または誤認を惹起するおそれのある表示である旨主張した。

3 然るところ、原判決は、「前判示(上告人注。右第1記載の判決)の使用上の注意の趣旨からして、ここに説明された使用法に従って使用上の注意を守ることは、当然に可能であるから、別紙第一目録記載の表示が使用上の注意に明らかに反すると認めることはできず、従って、右表示が本件パーマ液が使用上の注意の遵守義務を免れているとの誤認を惹起する表示であるとの原告の主張も、採用することができない。」と認定した(第一審判決三〇丁から三一一丁)。

「使用上の注意」につき、「薬液ができる限り付着しないよう使用すべきことを使用者に注意喚起」した趣旨と、前記各図板およびそこに付された各説明文により示されている使用法との間には明らかに矛盾し相反するところがあり、同「使用法に従って使用上の注意を守ることは当然に可能である」旨の説示は、論旨不明というほかなく原判決は理由不備を免れないというべきである。

第二点

原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな以下の法令違背がある。

一 1 植松鑑定において、通気法とともに全シアン法による分析が命ぜられていたところ、植松鑑定人は全シアン法に定められた分析方法をとらず、独自の分析方法を使用した。

すなわち、第一剤中には還元剤が、第二剤中には酸化剤が、それぞれ含まれていて廃液中に酸化性物質が存在しているので亜硫酸ナトリウム溶液を定量的に加えて還元すべきところこれを行わず、また留出液を弱硝酸性とし過マンガン酸カリウム溶液を加えて酸化した後、再蒸留する操作をすべきところこれも行っていない。

2 原判決は、予備実験において、亜流酸ナトリウムを加えなくても測定値に影響しないことおよび酢酸亜鉛を添加することによって妨害を除去することができることをそれぞれ確認しているとして、植松鑑定に不相当な点はなかったと認定した(第一審判決一四丁表)。

然しながら、第二剤中に明らかに酸化剤があるにもかかわらず、亜硫酸ナトリウムを加えなくても測定値に影響がなかったとする検査結果は経験則上誤りである。

また、酢酸亜鉛は比較的安定した錯イオンを選別するときに使われるものであって、これを添加したからと云って直ちに全シアン法に定める還元性物質の酸化手法に代替し得ないことは、講学上自明の理である。

3 原判決は、右の如く経験則上承認し難い根拠北基づいて植松鑑定の試験方法に不相当な点はなかったものと認め、その鑑定の信用性を高いと評価し、同鑑定に全面的に依拠して上告人の本訴請求を棄却したものであり、経験則違背を免れないというべきである。

二 1 原判決の理由中に植松鑑定の結果として掲記された文言自体に、次のとおり論理矛盾がある。

2 植松鑑定人は、条件aおよびbによって調整した廃液につき、

(一)全シアンの蒸留操作に伴って留出するピリジンーピラゾロン試薬呈色物質(以下、単に呈色物質という)がシアン化物イオンであると仮定すると、通気によって八〇パーセント以上揮散する。

(二)右各廃液をPH五。〇に調整して通気を行っても、シアン化物イオンは、ほとんど検出されないか、たとえ検出されても、全シアンの定量操作で検出される呈色物質に比較して著しく僅少である。

(三)チオグリコール酸およびボルテイスNO2の第二剤からは、通気法によるシアン化物イナンは全く検出されない。

(四)一リットル中にシアン化物イオン一・一一五ミリグラムを含む液からの通気法によるシアン化物イオンの回収率は、九六・八パーセントを示す。チオグリコール酸及びボルテイスNO2の第二剤にそれぞれ一リットル中に一・一一五ミリグラム含まれるようにシアン化物イオンを添加し、通気法によるシアン化物イオンの定量を行ったところ、その回収率は、チオグリコール酸溶液の場合、一回目七八・五パーセント、二回目八六・二パーセント、ボルテイスNO2の第二剤の場合、九〇・六パーセントである。この結果から、廃液中にこれら成分が共存しても、通気法によるシアン化物イオンの定量に著しい影響を与えるとは考えられない。

(五)条件bのうち、中間リンスを省略して調整した廃液にシアン化物イオンを添加して蒸留法によって全シアンの回収試験を行った結果、廃液中に含まれる呈色物質とともにほぼ全量回収され、廃液中にはシアン化物イオンの留出を抑制する物質は含まれてはいないと考えてよい。すなわち、調整廃液からは通気法によってシアン化水素を発生せず且つ、廃液中にはシアン化物イオンのシアン化水素への変換を阻害する物質は含まれてはいない。

(六)したがって、条件aおよびbによって調整した廃液中の呈色物質がシアン化物イオンであるとは認められない。と鑑定した(第一審判決一〇丁裏から一三丁表)。

3 次に同鑑定人は、bの廃液調整条件において、中間リンスを省略した場合につき

(一)廃液中の呈色物質の生成量は、中間リンスを省略しない場合に比べて増加する。また、その生成は、廃液調整の時間の経過につれて増加する傾向がある。

(二)同廃液について、通気法によるシアン化物イオンの検出を行ったところ、廃液からは通気法によりシアン化水素に変わるシアン化物イオンは、ほとんど検出されなかった。

(三)したがって、前記2と同様の理由によって、廃液中に含まれる呈色物質がシアン化物イオンであるとは認められない。

と鑑定した(第一審判決一二丁表から同丁裏)。

4 植松鑑定人は、a・bの各条件により調整された廃液につき、

(一)通気法によりシアン化物イオンは、ほとんど検出されないか、検出されても少量である。なお、その量は、廃液調整後の時間経過に伴って若干変化する。

(二)通気操作に伴って、廃液に含まれる呈色物質のキャリオーバーが皆無とは限らない。

(三)したがって、これらの数値がシアン化物イオンであるという確証はない。

と鑑定した(第一審判決一二丁裏から一三丁表)。

5 植松鑑定人は、上記第1ないし4から、「各パーマ液(上告人注・ボルティスNO2・訴外株式会社アリミノおよび同株式会社セイフティの各パーマ液)の施術過程、特に標準的な施術(中間リンスを省略しない場合)過程では、シアン化水素の発生は認められない」と鑑定した(同丁表)。

6 右一連の植松鑑定結果は、論理的にも整合を欠き意味不明・誤りである。即ち

(一)(1)前記第2ないし4記載の検査数値が鑑定書記載のとおりであったとしても、ここで論じられているのは、専らシアン化物イオンの問題である。

シアン化物イオンがどれ程回収されたとか、同イオンの留出を抑制する物質がないとか、同イオンが全く検出されない等の右検査結果から、前記第2の(六)および第3の(三)の結論、即ち廃液中の「呈色物質がシアン化物イオンであるとは認められない。」との結論を出した。

ここに植松鑑定でいう「シアン化物イオン」は、一般に余り使われていない用語であるが、前記2の(一)の「ピリジン-ピラゾロン呈色物質が仮にシアン化物イオンであれば、通気によって少なくとも八〇パーセント以上シアン化水素として揮散するはずである。」との文言があり(第一審判決一〇丁裏)、「シアン化物イオン」はシアン化合物のイオンのうちのシアン化物を構成するシアンイオン-全て遊離状態のイオンである-を意味するものと解される。

何故なら、シアン化合物のうちシアノ錯体として存在するものにあっては、シアンイオンは重金属イオンと結合状態になっており、通気法によってシアン化水素となって揮散することはまずない、仮にあったとしても僅少であって、通気法によって八〇パーセントというような大量のシアンイオンがシアン化水素として揮散するわけはないからである。

(2)前記第4における鑑定結果は、前処理を通気法で行った場合に検出されたシアン化物イオンに関するものである。

(二)(1)上告人は、本件パーマ液の第一剤および第二剤を使用する各施術過程においてシアン化水素が発生することを主張するものである。本件訴訟では、本件パーマ廃液中にシアン化合物が存在することを証明し、以て上告人の右主張を理学的に全てが実際と完全に一致した方法を以てより正確に立証しようとしたものである。

シアン化合物は、分析手法の観点から通気法により検出されるシアン化物と全シアン法により検出される全シアン(以下、単に全シアンという)に二分されるところ、植松鑑定は前記第2ないし4記載のとおりシアン化物イオンのみ論じ、ここから何の根拠も示さず全シアンについての検査結果また全シアンについて触れなくてよい理由につきいずれも明らかにすることなく、施術過程においてシアン化水素の発生は認められないと結論した(第一審判決一三丁表)。

(2)植松鑑定において、廃液中には「全シアンの蒸留操作に伴って留出するピリジンーピラゾロン呈色物質が含まれている」(第一審判決一〇丁表から同丁裏)ことが明らかとなった。即ち、廃液中にシアンイオンの存在することが明らかとなった(疑似呈色物質の問題は別に論ずるとおり、本件では問題にならない)ので、鑑定の作業は本来ここで終了すべきであった。

然るに、植松鑑定人は前記第2の(一)~(四)および同第3の(一)ないし(三)の如く推論(全く無益の空論であるが)を進め、右の呈色物質はシアン化物を構成するシアンイオンであるとは認められないとしたが、更に進めて残っている問題である全シアンについての推論即ち呈色物質が全シアンではないとの推論を放棄し(右呈色物質が全シアンであるなら、パーマ施術過程でシアン化水素の発生の可能性が当然に推認される)、いきなり施術過程におけるシアン化水素の発生の否定へと飛躍した(右呈色物質がシアン化合物でないと結論を出した後に初めて施術過程においてシアン化水素の発生を否定できる)。

(3)そもそも植松鑑定人は、廃液を全シアン法で処理したうえ廃液中にシアンイオンがあるか否か、あればその量につき鑑定を命ぜられていたものである(乙第四三号証-鑑定事項第1項)。右に「シアンイオン」とあるのは、特に限定がつけられていないのであるから遊離状態のシアンイオン(即ち、シアン化物を構成しているシアンイオン)とシアノ錯体として結合状態にあるシアンイオン(例えば、鉄イオンを構成しているシアンイオン)の両者をいうと解すべきであり、植松鑑定の目的から考えても右のように解するほかない。

然るに前第2ないし第3の記載からも明らかなとおり、植松鑑定人は廃液中の遊離シアン即ちシアン化物イオンの有無についてのみ問題とし、シアノ錯体となっている結合状態のシアンイオンの存否、あればその量に関する事項につき勝手に鑑定を放棄し鑑定命令に違背したものというべきてある。

(三)原判決は、右の如く廃液から留出した呈色物質が全シアンであるのかないのかの再検査を抜きにして、パーマ施術過程においてシアン化水素の発生はない旨の論理飛躍の鑑定結果並びに右呈色物質につき全シアンか否かの鑑定事項に明記された検査もしていないずさんな植松鑑定を信用性の高いものとした。

これは、論理矛盾・経験則に違背した認定というべく原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背がある。

7 また、前記第4の鑑定結果の記載に、一方において「a・bの各条件により調整された廃液からは、通気法によりシアンイオンはほとんど検出されないか、検出されても少量である。」(第一審判決一二丁裏)としてシアンイオンの存在を認め、他方右文言の直後に「これらの数値がシアン化物イオンであるという確証はない。」(第一審判決一三丁表)とあって、結局のところ全く相矛盾した鑑定結果の記述がなされ、意味不明である。

原判決は、本件争訟において最も重要な争点につきかかる不正且つずさんな鑑定を含んでいる植松鑑定を信用性の高いものと認定した。

これは論理矛盾・経験則に違背した認定というべく原判決には、判決に影響を及ぼす法令違背がある。

三 原判決は、植松鑑定の信用性が高いものとして上告人の本訴請求を棄却したものであるが、右信用性の評価において経験則違背が存し、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背があり、破棄されるべきである。

1 植松鑑定は、全シアン法により前処理を行った検水から留出した物質が、ピリジン-ピラゾロン試薬呈色を示したとしても、なお同物質をシアン化合物と認定することはてきないとの前提にたつ。

2 然しながら右前提は、JIS規格に定めるシアン分析法の一つである全シアン法を曲解したものである。

その証拠に、植松鑑定人の挙げる疑似呈色物質である「アミノ酢酸、アンモニアと共存するグリオキシル酸、あるいはグリコール酸等のカルボン酸アミン系の化合物」、「アンモニアと共存するホルムアルデヒドもしくはメタノールを含む液に塩素とアルカリを作用させ(上告人注・・・作用させた液の意)、あるいは亜硝酸とEDTAと共存する液」(第一審判決一五丁表)は、いずれも全シアン法の定める前処理を行うことにより、ピリジン-ピラゾロン試薬の呈色の妨害を除去し得るのである(第一剤のみの使用時にはかかる疑似呈色部質はない-甲第三九号証)。

植松鑑定人の疑似呈色物質が存在する旨の見解は、各法令で指定している全シアン法に定める前処理を行わない場合の一般論であって、上告人としては、何故にただ混乱を引き起こすだけの有害無益の問題を植松鑑定人が展開するのか納得し得ない。

3 そもそも、JIS規格に定められたシアン分析法は、改定に改定を重ねられて今日に至っているもので、右分析方法に鑑定人の主張するような単純な欠陥が有り得るはずがないのである(鑑定人、原判決が挙げる疑似呈色物質に関する所見は既に三〇年前から明らかになっているものである)。

4 ちなみに、公害対策基本法九条の規定に基づく「水質汚濁に係る環境基準」(昭和四八年環告五九)、排水基準を定める総理府令三五の規定に基づき定められた「環境庁長官が定める排水基準に係る検定方法」(昭和四九年環告六四)および下水道法施行令九条三項に基づき定められた「下水の水質の検定方法に関する省令」(昭和三七年一二月一七日厚生省・建設省令一号)は、いずれもシアン検出方法について全シアン法に限定し、検水中に呈色物質が存在するときには、直ちに検水中にシアンイオンがあるものとして処理されることとなっている。

原判決は、右の各法令の解釈として、「シアン検出方法について必ずしも全シアン法に限定して前処理を定めているものではない。」(原判決九丁表から裏)と判示しているが、これは誤りである。

なぜならこれら法令は、いずれも規制値を全シアン濃度を以て示しており、通気法では検出されない全シアンについても(すなわち結合状態のシアンイオンについても)規制している。すなわち、シアン検出方法について前処理を全シアン法でやらざるを得ない規定のしかたになっているのである(同法以外には全シアンを検出する適当な方法がないのであるから)。原判決はかかる事実を見落とし前記の誤った解釈をしたものと考える。

5 以上の次第で、植松鑑定において、廃液中に呈色物質の存在を、それも一五・一〇ppmという高濃度のものを認めながら、前記の如く疑似呈色物質の問題を持ち出し右呈色物質をシアン化合物と認められないとした鑑定は経験則に違背したものである。

原判決は係る植松鑑定を信用性の高いものとして認定したが、これは経験則に違背した認定というべく原判決には判決に影響をおよぼすこと明らかな法令違背がある。

四 右のほか原判決は、植松鑑定を信用性の高いものとして上告人の本訴請求を棄却したものであるが、右信用性の評価において経験則違背が存し、判決に影響をおよぼすこと明らかな法令違背により同じく破棄されるべきである。

(一)原判決は「本件パーマ液の人体に対する害の有無を調べるためには、シアン化物を検出する通気法もしくは加熱蒸留法によるべきであり、そのうちでも現実の使用状態に近いという意味では通気法によるものが最も合理的であると考えられる。」(第一審判決一八丁表)と認定した。

(二)通気法は、検水をPH五・〇に調整する前処理を行い、この検水に通気して留出する物質を所定の方法により分析するものであるが、通気法では結合状態にあるシアンイオンの留出はできず全シアンの検出は不能である。

(三)上告人は再三強調してきたとおり、本件パーマ液を使用する施術過程においてシアンの発生があることを主張し、パーマ廃液中にシアン化合物が存在することを証明することにより、上告人の右主張を間接的に立証しようとするものである。

然して、液体中にあるシアン化合物は、シアン化水素および遊離のシアンイオンとして存在するほか、シアノ錯体のような結合状態のシアンイオン(全シアン)としても存在するのであるから、原判決の通気法によるものが最も合理的である旨の右認定は明らかに誤りである。

(四)更に原判決は、右認定の根拠として全シアン法につき、同法によって「全シアンが検出されたとしても、そのことから直ちに人体に害があるとは結論できず、本件パーマ液の人体の害の有無を調べるという目的にとっては、必ずしも適当な方法ではないと考えられる」と認定した(第一審判決一八丁裏)。

右認定は、第一審および控訴審各裁判所が上告人の本件訴訟における前記立証方針を理解していないことから生じたものと解せざるを得ず、更にその根底にはシアンの猛毒性を理解していないことによるものである。

シアンイオンの猛毒性につき、「シアンイオンは、鉄、銅などの重金属イオンと結合すると安定な化合物を生成する性質があるところから、検水中の遊離状態のシアンイオンのみを分析しても安心できない。法律による規制値は遊離状態、結合状態を問わず全シアン濃度について規制されている(簡易水質試験法第二版・共立出版株式会社一〇六ページ)」とされているのである。

(五)右の趣旨の第一点は、工場排水、水道水等に含まれるシアンイオンの存否を分析するとき、遊離状態のシアンイオンが存在しないことが判明したからといって、結合状態のシアンイォンの存否、量の分析を省略するわけにはいかないということにある。

シアノ錯体に伴う結合状態のシアンイオンがそれ自体においては安定したものである、したがって、「全シアンが検出されたとしても、そのことから直ちに人体に害があるとは結論できず」(第一審判決一八丁裏)などと呑気なことはいっておられないというのである。

体重五〇キログラムの人の場合、僅か〇・〇六グラムのシアン化水素の吸入により死亡する(化学辞典普及版・森北出版五一八頁)。たとえ、微量といえども人体に害を及ぼす恐れを否定できない。

廃液から全シアンが検出されたなら、直ちに本件パーマ液(第一剤および第二剤)を使用する施術中において全シアンが生成される過程で、遊離シアンが生じなかったかと思い及ぼすのが当然である。

シアン化合物の不安定性につき、「JIS規格では、試料の採取後直ちに試験を行うことが原則であること。試料容器は密栓できるものを用いることになっており、試料の採取保存について「シアン化合物は一般に不安定で分解したり、空気中に揮散したりするので、採取後直ちに試験を行うことが原則である・・・・」と規定していることが認められ」るとした(原判決一〇丁裏から一一丁表)ことから明らかなとおり、シアン化合物は一般に不安定な物質である。

植松鑑定においては、a条件につき第一剤は四〇分、第二剤は六〇分合計一〇〇分の塗布時間が費やされ、この間に生成するシアン化合物は刻々と変化・分解・揮散し、調整廃液の作成開始後一〇〇分を経過して得られた廃液中には、シアン化合物の中では安定な全シアンが残留し、シアン化水素の大半は揮散しているとの推理も容易に成り立つのであって、この点に思い及ぶなら、本件では通気法の鑑定は完全に誤りであった。

(六)かくして、シアンイオンの猛毒性、シアン化合物が一般的に不安定な物質であることおよび調整廃液の作成に一〇〇分という長時間を要していることの三点を見誤って「本件パーマ液の人体に対する毒の有無を調べるためには・・・・通気法によるのが最も合理的であると考えられる」(第一審判決一八丁裏)とした原判決の認定が如何に誤ったものか明らかというべきである。

(七)なお、原判決は前記第二点の第三項3において指摘したとおり、公害対策基本法および下水道法において、シアン検出方法について必ずしも全シアン法に限定して前処理を行う旨を定めているものではないとの誤った解釈を説示しているが、これもまたシアンの猛毒性と特性(特に不安定性)を理解していなかった結果というべきである。

2(一)次に、原判決は「植松鑑定人が、同鑑定において唯一回だけ廃液を調整し、その調整廃液について蒸留法と通気法の順序を代えた試験も同じく一回しか行っていない点については、前掲乙第五四号証によればピリジンーピラゾロン法は、充分に確立したシアン化合物の定量決として広く利用されている方法であると認められるうえ、含有量が微量(〇・五ppm)の定量に適している分析法であることは前に認定のとおりであるから、一回の試験結果でも充分に信頼性のあるものと認めるのが相当てある。」と認定した(原判決一二丁表から同丁裏)。

(二)右認定は経験則違背の誤りを犯している。

分析方法が確立されたものであること、或は適切なものであることと試験を何回行うかということは別次元の問題である。たとえば、確立された且つ適切な分析方法によったとしても、当該分析において求められている確からしさ程度、精密さの程度等によって行うべき試験回数はことなるというべきであって、本件の分析においては唯一回の試験でその結果につき「充分に信頼性のあるもの」と結論することは、常識的にいって首肯し得ない。

特に、調整廃液に通気法をしたところ、シアン化物イオンが出ている(第一審判決一二丁裏)にもかかわらず、廃液中に含まれるピリジン-ピラゾロン呈色物質のキャリーオーバーが皆無とは考えられない(同丁裏から一三丁表)このことを唯一の推定根拠として呈色反応をシアン化合物イオンによるものとはいえないと強弁し、唯の一回の試験のみで鑑定結果を出したことは、「化学分析者」の採るべきところではなく許し難いものである。

原判決の唯一回の試験結果でも充分信頼性あるものとした認定は、経験則違背の誤りをおかしたものである。

3 以上の次第で原判決には、以上のとおり本件において通気法を最良と誤解し、シアンの猛毒性を誤認し、また一回の試験結果でも充分信頼し得るとする経験則違背の誤りがあり、これらは判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背というべく、原判決は破棄を免れない。

第三点

原判決は、以下の審理不尽の違法があり、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背があり破棄されるべきである。

一 1 本件において最も重要な争点は、本件パーマ液第一剤および第二剤を使用する各施術過程においてシアンが発生するか否かである。

上告人は、三〇数年も前に世に使用されているパーマ液(本件パーマ液を含む、いずれも厚生省の告示二八〇号に定める基準に適合するパーマ液)の危険性を指摘し、以来半生をかけて闘って来たものである。

現在、上告人はシアンの出ないパーマ液について、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、カナダ、オーストラリア、ホンコン、シンガポールにおいて既に特許を取得しているほか、なお数ケ国に特許を申請中である。

2 シアン化合物は、一般的に極めて不安定な物質であり、シアン化水素を代表として遊離シアンイオンを含む化合物の猛毒性は広く知られている。因みにシアン化水素の致死量は〇・〇六グラムである。

公害対策基本法九条の規定に基づく「水質汚濁に係る環境基準」では、全シアンの濃度を〇と定め、水質汚濁防止法三条一項の規定による昭和四六年六月二一日「排水基準を定める総理府令」には、全シアン濃度一・〇〇ppmが規制値として定められている。

右規制の事実から、遊離シアンイオンのみならず結合状態のシアンイオンとして存在する全シアンをも規制されていること、「環境基準」にあっては規制値は〇であり、「排水基準」にあっては一・〇〇ppmという極めて小さな値であって、法律はシアン化合物に対して非常に厳しい姿勢を示していることが判明する。

これも、挙げてシアンの猛毒性によるものである。

3 被上告人は、我国においてパーマ液を製造する有力なメーカーであり、当初と比較すると本件パーマ液の総消費量は半減してはいるが、なおこれを使用してパーマネントウエーブをかける女性は未だにおびただしい数に上がる。また、本件パーマ液を使用する業務に従事する人々の数も減少しつつはあるが、なお相当数になる。

美容室に勤務する女性が一般的に貧血症状を呈したり、またパーマ液の施術を受けた後二、三日間頭部に違和感が残ることはつとに知られているところである。

仮に、本件パーマ液の施術過程に発生するシアンが微量なものであったとしても(但し現実には、植松鑑定におけるa条件の調整廃液の全シアン濃度は一五.〇ppm、東海化学分析研究所の数値は一〇・二〇ppm-甲第二九号証-という恐るべき高濃度である。)、およそ人の健康にかかわる問題である。

4 本件係争は、不正競争行為の差止を求めるものであるが、事案の本質は国民の健康に直結する問題である。

然して、かかる点より本件の審理を担当する裁判所は、事案の究明に当たり慎重な態度を以って審理を進めるべきところ、以下に述べるとおり上告人の立証を著しく制約したまま判決を言い渡したもので、審理不尽の違法がある。

二 1 即ち上告人は、前記第二点で主張したとおり、植松鑑定には、多くの論理矛盾、検査方法の不当性、経験則違背があることを指摘し、且つまた同鑑定が上告人を当事者としない全くの別事件で行われたものであり、同鑑定に対する上告人による問題点の指摘にも限界があることを理由として、本件事案において、JIS規格の分析方法に従いきちんと鑑定がなされるべきであると主張し、鑑定申請をしたものである。

2 しかるに原審は、右鑑定を必要ないものとして却けた。前記のとおり、本件事案は人の健康に直接関係する問題であり、又上告人の申請した右鑑定は、わずか数日間で終了し得るものであって、訴訟経済上如何なる負担も生ずる恐れはない。

植松鑑定で、疑似呈色物質の問題が持ち出され、ことの真相を不透明に導いたが、本事案において鑑定を行うに当たり、その中で確認実験を行わせ植松鑑定人が主張する疑似呈色物質がJIS規格に定める全シアン法の前処理を行うことにより全て除去されるか否か検査をさせれば、上告人の主張が正しいのか植松鑑定人ひいては被告人の主張が正しいのか一目瞭然である。

その他、植松鑑定において存在する多くの問題点についても、裁判所において必要とされるならば(上告人としてはあまりにも明らかな誤りであるのでその必要は認めないが)、右問題点につき確認実験を鑑定中に命ずるならば全て植松鑑定人ひいては被上告人のとる見解が誤りであることも判明する。

3 本件審理において上告人の行った鑑定申請は、端的に本件事案の真相に迫るものであって、百万言を費やすいかなる証言よりも証明力があるものというべきである。

上告人の鑑定申請を却下した原審の訴訟手続きは、審理不尽として判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背があるべきというべきである。

四 1 原判決は、甲第三九号証の一、二、同号証の三の一、二、同号証の四の一ないし三及び同号証の五ないし七につき、「控訴人が他の研究機関に依頼した検査結果とこれを基にして植松鑑定を非難する内容の同人の陳述書であるが、各検査機関に依頼した検査結果は、検査対象物件及び検査方法、条件についての客観性を知る手掛かりを見出すことができないから、同検査結果を採用することは相当でない」と判示した(原判決一三丁表から同丁裏)。

2 右甲第三九号証の一、二、同号証の四の一ないし三は、いずれも計量証明事業を営む環境技術株式会社およびいずみ化学工業株式会社公害技術センターによる検査結果を記載したものであり、「分析方法、条件についての客観性」を問題とした原判決の認定には承服しがたいが、これを別としても、上告人は、右検査につきこれに関与した佐野政美を証人として、又当該廃液の作成等につき立証するため本人尋問を申請していたのである。

原審は、同証人申請および本人尋問申請を一方において却下しておきながら、他方において「検査方法、条件についての客観性を知る手掛かりを見出すことができないから、同検査結果を採用することは相当でなく、したがって、同検査結果に基づいた陳述書も採用することはできない」と認定した(原判決一三丁表から同丁裏)。

原審の右訴訟指揮・証拠決定は、上告人に対し一方において立証を許さないとし、他方において証拠がないとして上告人の主張を排斥するものであり、上告人としては到底承服しがたいものである。

4 しかも、甲第三九号証の一以下の各分析結果報告書は、本件パーマ液の第一剤を毛髪に塗布した場合にシアンが発生することを原理的に証明しようとしたものである。

本件パーマ液の第二剤の主成分は、酸化剤であってその酸化作用により、第一剤の使用により生じていたチオシアン、黄血塩または黄血ソーダから更にシアンを発生させるのであるが、右酸化作用の過程で複雑な化学変化があることも否定できないので、問題を簡単にするためより単純化した形すなわち第一剤のみに着目しても上告人の主張するところは十分に立証し得るものである。

前記各分析結果報告書は、かかる見地より提出された証拠である。

五 上告人は、第一審及び第二審を通じ、植松鑑定における検査方法が不当なること、鑑定書記載の鑑定結果・その文言その論理の矛盾性、経験則違背等を主張し、また上告人が訴訟外で行った本件パーマ液の検査結果、本件パーマ液の危険性等などを詳細に主張した。

然るに原審は、本人尋問の機会すら与えないまま結審し原判決を云渡したことは審理不尽というべく、原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背があり、廃棄されるべきである。

以上

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